丸くやわらかい。

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売り方を憎んで The Walking Dead を憎まず。

まず、Twitterで茶化す程度しかしていない私も、一介のプレイヤーとしてそれなりに深刻にこの話題について考えているということを明記しておきたい。

Twitterは意見発信には向かない。140字は何かを主張するにはあまりに短過ぎるし、複数ツイートを連ねても一部しか見られない事が多いからだ。Twitterは散発的に冗談でも飛ばして反応を貰うくらいの使い方が似合っているように思う。だから、文量が多くなりそうな主張や考えはブログにまとめて書くのである。

 

昨今、界隈ではウォーキング・デッド(The Walking Dead 以下TWD)と、MTG(の、Secret Lair)のコラボカードが話題になっている。

Secret Lairに列する商品の情報をおさらいしておこう。まず、完全受注生産だ。数日の注文期間が設けられ、その間に注文された数だけ生産され、注文者のもとに届けられる。日本からも注文は可能だ。私も注文したことがあるが、初期傷もなく無事に届いた。再販はない。少なくとも今のところはない。数日の注文期間の間に注文し損ねてしまったら、お近くのカードショップに入荷されることを祈るしかなくなる。

所謂限定品商法だが、今回は更に酷かった。Secret Lairは基本的に普通のMTGのセットでは扱えない特別なアートが描かれた再録カードを買えるシステムだった。しかし、今回はSecret Lairの方式でTWDとコラボした完全な新カードを刷ってしまったのだ。

これが多くのMTGプレイヤーの逆鱗に触れた。

"話題になっている"というよりかはもはや"大荒れ"と呼べるような荒れようで、海外では統率者戦においてTWDコラボカードの禁止を求めたりと何やら穏やかでない運動が起きているそうだ。一部コミュニティは大々的に"Commander"に対して"Captain"という皮肉の効いた名前のローカルルールを提唱したりと、海を越えてマジックを楽しむ私たちの目にも入るような大きな運動が目につく。いつも燃えてるなこの界隈。

 

統率者戦における“代表”であるシェルドン・ネメリーは、下記記事で多くのプレイヤーが問題視している部分を箇条書きにした上で、「TWDコラボのカード達を禁止にしない理由」を語っている

 

mtgcommander.net

 

1.これらのカードには入手の可能性について問題がある。

2.カードにMTG以外のIPが存在するのは良くない。

3.Neganはよろしくないキャラである。

 

3番目は一見してギャグの類にも思えるが、シェルドンが真面目に反論している辺り多分本当に言われたことなんだろうと思っている。これは2番目の問題にも繋がってくる話で、要は(日本でも議題になっている)マジックの世界観が壊れるという話と並行して「現実的な不快感が存在するカードをこの世界に入れないで欲しい」という主張だと言えるだろう。

 

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シェルドンは、これに対してニコル・ボーラスやヨーグモスを例にして、TWDに登場する彼らは俳優が演じるただのキャラクターであり、MTGにおける悪役がカードになるのとそう変わらないよね? と言っている。

これはとても妥当な主張なように思えるし、私個人としては《Negan, The Cold-Blooded》がどれだけ不愉快なキャラクターでもそれは切り分けて考えるべきことだと思っているけれど、それでもマジックの領域に踏み込んで来たならばユーザーの反応は受け止めなければならない。

 

ポータル三国志はそのまま現実の三国志を題材にしたものだし、アラビアンナイトは(ラバイアなる次元を舞台にしたものだと後付けされたが)そのまんまだし、最近はゴジラシリーズのカードが登場した。銀枠ならMy Little Ponnyとのコラボカードだってある。《秘密を掘り下げる者》はThe Flyという映画を元ネタにしたものだし、《サメ台風》もその類だ。

今までのマジックにあったそれらのネタの数々とTWDの登場人物を描いたカードは、私たちにとっては些細な違いのように思えるけれど、そうでない人も確実にいて、現実世界において現在進行形で活躍している実在の人物が描かれるのがどうしても受け入れられない層もある、という事だろう。

 

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ただ、個人的には2や3の理由は1と比べれば遥かに些細な問題なのではないかと考えている。それほどまでに1の理由"入手の可能性についての問題"は大きい。私の観測範囲内でも、2や3よりも1について言及しているプレイヤーが多いように感じる(もちろん統計を取ったわけではないけれど)。

 

「これらのカードは入手の可能性について問題がある」

つまり

「ひどく入手しにくいという欠陥がある」

そして

「もしこれらがトーナメントシーンで必要なカードになってしまったらどうなる?」

という点が心配なのだろう。

 

私はSecret Lairをそこまで悪いものだとは思っていない。お値段は張るものの欲しい人の所には1セットは届くようになっているし、何より、通常のセットに入れられない挑戦的なイラストのカードが使えるようになるのは良い事だと思う。

私もまたZendikar Expeditionを始めとした数々の特別版イラストに、星座が描かれたテーロスの神々に心を踊らせたプレイヤーだ。だが、そんな特別な入手の仕方しかできないカードはイラスト違いの“再録”に過ぎないからこそ受け容れられていたという点も同時に認識すべき点だろう。

今回のTWDコラボのカードはどれも個性的な能力を持っているが、統率者としてのポテンシャルは《帰還した王、ケンリス》よりも遥かに劣るカードである事は間違いないし、エターナルフォーマットで使うにはまだまだカードパワーが足りないようにも思える。私はこれらについて(既プレイヤーのターゲット層に限って見るなら)カジュアルに統率者戦を楽しむプレイヤー向けにデザインされているという印象を受けた。

少なくとも、“今回の”カードは。

 

例えば、今回のやり方でウィザーズがそれはもうめちゃくちゃに儲かったとする。Secret Lairは小売を介さない受注生産制だ。流通のために間に別の業者を挟むこともなければ、在庫を気にする必要も無い。その売上はダイレクトにウィザーズを潤すわけで、"めちゃくちゃ儲かる"という表現はあながち誤ったものでもないだろう。

とにかく、コラボが受け入れられて新カードがバカ売れし、今回めちゃくちゃに儲かったとする。そうするとウィザーズは第二弾をやろうとするだろう。次は何とコラボするかは分からないが、段々調子に乗ってくる。こいつは儲かる。素晴らしいやり方だ。もっと儲かるやり方はないか。そういう方向性になる。ウィザーズは商売をしているからだ。

究極的には、カードゲームを売る企業というものはユーザーに楽しいカードゲームをさせるのが目的ではなく、カードゲームを介して利潤を得るのが目的だからだ。

 

そうなってしまえば、次か、次の次か、もっと先かは分からないが、Secret Lairに封入される新規カードはきっとエターナル環境に影響を与えられるだけの力を持ったカードになることだろう。受注生産品に1枚だけ入ったカードが4枚必要になる? そんな馬鹿な。と言いたくなるだろう。それは今すぐ起きることではないかもしれないし、杞憂に思えるかもしれない。しかし、ウィザーズの歴史の中には、そうした"調子に乗った"例がいくつもある。

神話レアはカードパワーを基準にして制定されるものではなく、ストーリー上重要なキャラクターや出来事を描くに留めたいと最初は言っていたが、気付けば低コスト高パフォーマンスの強力カードが神話レアに偏るようになってきた。

ボックス特典カードは構築に必要になるカードにはしないとしていたが、 先程軽く名前を出した《帰還した王、ケンリス》はまさにボックス特典カードだし、同じ出自の《運命のきずな》は大会に頻繁に足を運び、トップを目指すプレイヤーならば当時必要なカードだった。

PWデッキは意図的にカードパワーを抑えていたおかげで大きな問題にはならなかったが、ブロール構築済みデッキはこの世に生を受けた瞬間《フェイに呪われた王、コルヴォルド》がスタンダード構築戦で複数枚デッキに積まれるようになった。

幾度の再録や長い年月を挟んでの事ではあるが、小説の付録カードである《Mana Crypt》が統率者戦を真面目にやるならば不可避に近いカードとなり、いまだ1万円近い値段を維持しているのも似た例だと言えるだろう。

直近の例を挙げるならば、現に今、特殊アートでの再録から始まったSecret Lairのブランドで完全新規カードを刷り始めている。

 

……どうだろう。マジックの明るくない未来というものが少しは見えてくるのではないだろうか。

 

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さて、TWDコラボを切っ掛けにあちらこちらで議題となっているマジックの未来について、皆が危惧する点はこんなところではないだろうか。

端的に言って、今のウィザーズはあまり信用されていないようだ。マジックは依然として面白いゲームだが、少なくともウィザーズの売り方は多くのプレイヤーから好意的には思われていないように見えるし、長くやっているプレイヤーほど、今のウィザーズのあり方を暴走か何かのように捉えているフシがある。

実際、最近の動向を逐一見ていると、本分であるはずのスタンダード環境の調整を疎かにしてユーザーから金を絞り取る事ばかり考えていると思われてしまうのも無理はない。スタンダードで《自然の怒りのタイタン、ウーロ》の禁止を発表し、そのままTWDコラボの新カードの発表をし出したのは私も驚いた。企業には予定というものがあり、そう簡単に日付をズラしたりはできない。そう頭では分かっていても、煽りにしか感じられないプレイヤーも少なくなかっただろう。
フォローするかのように翌日にはマローは今回がコラボカードを入手する最後のチャンスというわけではなく、後に再録することもできると語っているが、それがいつになるかは明言してはいない。少なくともすぐではない筈だ。

 

ここまで聞くと今回のSecret Lairの売り方は悪どいものに見える。だからといってカードがクソなわけではない。"カードに罪なし"だ。TWDのコラボカードは実に個性的なカードデザインをしているし、今までにない面白い能力を持っている。それに原作を履修したプレイヤーからすると、かなり忠実に作られているのだそうだ。

ワイルドで超かっこいいノーマン・リーダスが描かれた《Daryl, Hunter of Walkers》を統率者にしてデッキを組みたいと思った人、原作に興味が湧いた人は絶対にいると思っている。私以外にもね。

 

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こういう時、私が考えるのは"問題点を整理すべきだ"という事。

ついでに言ってしまうと、私は「Neganは悪いヤツだからカード化されるべきでない」なんて本当に思っている? と問いたい気持ちがある。これまでに現実世界を元ネタにした様々なカードがあって、多元宇宙という多様性を受け容れられる設定がありながらも「世界観が壊れる」と本当に思っているんだろうか? モヤモヤとした気持ちを上手く言語化できずに、とりあえずの理由付けとしてそういう主張をしているんじゃないだろうか?

 

勿論、本心でそう思っているのなら私が口を挟むべきことではないし、先述のようにどうしても受け入れられないという人は実際にいるだろう。それに、元より日本と海外で温度差がある話題だから、皆がそうした考えを持っているわけではないのは分かっているけども、心当たりがある人は今一度「叩くための理由付けをしてしまっていないか?」と自問すべきではないかと思う。

次にそうして冷静になった頭でどこが悪いのかを考え、確かな論拠を持って根気強くウィザーズのアンケートなりで、問題を正しい方法で伝える事が大事だと私は思う。"何が悪いのか?"というのは散漫になってしまってはいけないと思うし、少なくとも海外で行われた活動のように統率者戦からコラボカードを仲間外れにしようとしたり、草の根で新しいフォーマットを作って抗議の意思を見せる、なんてのはユーザー間では騒ぎになるかもしれないが、抗議のやり方としては間違っている。

少し長いけれど、シェルドンの文章から引用をしてみよう。

 

One of the calls from the community was that we should ban these cards to “send a signal” to Wizards of the Coast for a “blatantly commercial act”.

First of all, we don’t think it’s appropriate to tell them how to run their business; that’s way outside the scope of our charter.

Second, the banned list isn’t the appropriate vehicle to voice our displeasure over something, nor is using it as punishment. The banned list is an abstract construct to corporate decision-makers. The right path to walk is the one we’ve gone down: real change happens from having real conversations with real people, which we have been doing since the news broke.

Finally, attempting to send such a signal would be doomed to failure. It will not have the effect that people hope.

The primary goal of these cards is almost certainly new-player acquisition. Wizards hopes to lure some Walking Dead fans into Magic and any interest from Commander players is just a small bonus. Banning the cards until functional reprints are available doesn’t do much either.

 

「コミュニティからの呼びかけの1つは、これらのカードを禁止して、"あからさまな商業的行為"について、ウィザーズに"(反対の意思表示という意味の)信号を送る"必要があるというものでした。

まず第一に、私たちは彼らにビジネスを運営する方法を教えることは適切ではないと思います。それは私たちの権利の外です。

第二に、禁止リストは、私たちの不満を表明するのに適切な手段ではありません。禁止リストは、企業の意思決定者にとっては抽象的なものです。本当の変化は、実際の人々との実際の会話から起こります。

最後に、そのような信号を送るやり方は失敗する運命にあり、皆が望むような効果はありません。

これらのカードの主な目的は、ほぼ確実に新規プレイヤーの獲得です。ウィザーズは、TWDのファンをMTGに誘うことを望んでおり、統率者プレイヤーからの関心はほんの小さなボーナスに過ぎません。機能的な再版が利用可能になるまでカードを禁止しても、あまり効果はありません。」

 

私はさほど英語が得意なわけではないのでGoogle翻訳とDeepLを駆使しつつ少し省略をしているが、個人的にはこう説いたシェルドンは正しいと思う。カードそのものを排しても意味はないし、本当に現状を変えたいのならば別の手段を取るべきだ。

 

今回の騒動が大きくなった理由は様々な主張がごちゃ混ぜになっているからだと私は考えている。

Secret Lairの売り方が良くない。発表タイミングが良くない。限定生産の新カードを刷るのはルール違反だ。今後どういう路線でやっていくのか心配。MTGの世界観に干渉している。キャラクターが好きじゃない。そもそもスタンダードの調整がテキトーなのだからまず誠意を見せろ。禁止カードを減らせ。etc……。

様々な意見を見ていると、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い状態になっているんじゃないかと心配になってしまうこともある。何にせよ、何かに反対するならば手段は冷静に考えるべきだと思うし、何が悪くて何処が気に入らないのかは考えるべきだし、TWDのコラボカードたちにヘイトをぶつけても事態が好転する事はない。

 

さて、長くなってしまったが、最後に、私の個人的な考えを書いておこう。

私は少しくらいコラボカードが出た程度でマジックの世界観が壊れるとは思っていないし、はたまたキャラクターの善し悪しなどカード化の是非に最も関係の無い部分だと思っている。ゲームの調整は難しい事だし、非常に不本意ではあるが少しくらい禁止が出るのもある程度仕方がないとしよう。様々な不満も今は関係がないから黙っておくことにしよう。ただ、こうした限定商法が流行ると、プレイしている人間は困るのだ。

そうして流通したカードをいざ使いたくなった時に、どこの店を探しても見当たらず、海外通販で1枚100ドルで4枚買うしかないという状況は想像したくもない。ゲームがやりにくくなる。ただその一点が、私が限定商法に対して忌避感を感じ、想像しうる限りカードゲームを売る仕事をしている会社がやる商売としては大変下等なやり方だと感じる理由なのである。"カードに罪なし" だが、その売り方がエスカレートするようならば(既にエスカレートした結果なのかもしれないが)、付き合い方を考えないといけないだろうなと私は思っている。

 

長々と私の考えを読んでくれてありがとう。共感してくれた人には感謝を。そうでない人には余計なお世話だったかもしれないが、少しでも別の考えに触れる機会になれたのなら幸いだ。