丸くやわらかい。

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アリーナオープンまでの二週間。

7月も半分が過ぎたというタイミングで、私はと言うと感情の死んだ顔でゴブリンを回していた。

 

時間は無かった。

今回のアリーナオープンのフォーマットはヒストリック。それ自体は良かった。ジャンプスタートの発売によってそれまでのノウハウが無に帰した、完全な別物と言ってもいいほどのヒストリック。研究のしがいがあるフォーマットだ。

大会に出る以上は勝ちたい。勝たねばならない。7月17日のジャンプスタート実装から、賞金制大会にして草の根プレイヤーの目標の一つでもあるアリーナオープンまではたったの二週間しかなく、激変したヒストリック環境をじっくりと学習する時間は、どう贔屓目に見たとしても無かった。

 

とはいえ、大方最初に握るデッキの目星は付いていた。新カードによって大きく強化された部族デッキ──“ゴブリン"である。

研究が進むにつれて全体除去への弱さが致命的なレベルであることが認知されたエルフと違い、ゴブリンデッキは下馬評に違わぬ大躍進を遂げた。それこそ、魑魅魍魎の蔓延るヒストリック環境のメタゲームの最上位に食い込むほどに。

《スカークの探鉱者》や《ゴブリンの戦長》による脅威の早出し。《ゴブリンの酋長》を並べてのアグロ戦略。《人目を引く詮索者》や《ゴブリンの首謀者》を用いたアドバンテージ獲得力。《宝石の手の焼却者》でのクリーチャー除去。そして《上流階級のゴブリン、マクサス》という、“出すだけでゲームを終わらせることができる”必殺技。

 

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今のヒストリック・ゴブリンは、単独の部族デッキが求める全てを手にしたと言っても過言ではないだろう。

時には全体除去の返しに《マクサス》と彼が引き連れてきたゴブリンたちが20点以上のダメージを叩き出す事もある 。下準備をせずともただ出すだけで勝てるカード──同じく《孔蹄のビヒモス》という必殺技を得たエルフとゴブリンの明暗をはっきりと分けた違いはここだ。

当初こそ6マナという重さから《マクサス》の採用枚数は2〜3枚に抑えられていたものの、“オリカゴブリン”という前評判の通り、3日と経たずにゴブリンは「如何にマクサスを出すか」という至上命題のもと構築されるようになった。

 

さて、楽しい、気分が良い、そして強いと三拍子揃った【ゴブリン】を何故死んだ顔で回していたのか。辛さの理由は幾つかあるが、それらは概ね「BO1環境にゴブリンが多すぎる」という事実を下地としている。
ゴブリン同型戦は如何に相手より速く《マクサス》を出すかに特化しており、プレイング云々以前に「相手のトップ6枚が微妙であってくれ(あるいは自分のトップ6枚が強くあってくれ)」と祈らなければならない場面があまりにも多すぎた。

 

《群衆の親分、クレンコ》と《スカークの探鉱者》、それに速攻を付与するロードが捲れると不思議な力で死ぬことになる。 これはかなり極端な例だが、こういうことが起きる可能性はある。

 

ゴブリン同型戦を意識した構築を試しはした。

《ゴブリンの鎖回し》を使ったり、あるいはそれに《死住まいの呼び声》で接死を与えたり。《スカークの探鉱者》を処理するだけで《マクサス》の着地は一気に遅れるし、同時に《ゴブリンの扇動者》などの雑多なタフネス1流しつつ3/3先制攻撃が立つとなると《ゴブリンの酋長》を並べてのアグロプランも難しくなる。


当初は成功の兆しを見せたものの、最終的な勝率は大きくは伸びず、「どう対策しようともマクサスが存在する限りはマクサスの捲れ方次第で負ける」という事実の認識に至った。ゴブリンの枚数を減らして別のカードを足すような付け焼き刃の対策はむしろ「マクサスの捲れが弱くなる」としてかえってデッキパワーを下げてしまう結果になりかねない。
打ち消しやCIP能力の無力化を当てられなければどう足掻いても負ける時は負ける。このザマでは安定した勝率など望むべくもない……。

 

ならば、と《マクサス》を1ターンでも早く出すために《ファイレクシアの塔》を入れてみたり、《銅纏いののけ者、ルーカ》による“変身”ギミックを混ぜ込んでブン回りのパターンを増やしたりと細かな変更を加えては、やはりダメだと戻す。

三歩進んで二歩下がる。三回に二回くらいは三歩下がる。たまに四歩下がる。ジャンプスタートのリリースから最初の一週間は手応えを感じられない不毛な微調整が繰り返されていた。

 

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心を病んでいる時に組んだゴブリン。参っている具合がよくわかる。

 

数多のゴブリン同型戦を越え、大苦戦の末にダイヤ帯に上がる頃には私は疲れ果てていた。

 

「勝てる気しないしアリーナオープン出たくないんだけど……。」

 

そう弱音を吐く私に「じゃあ色々組んだから回してみてよ。ダイヤ行ったばかりならもう失うものないしデッキ変えて試すなら今でしょ」と説く友人。そのデッキに《深海の破滅、ジャイルーダ》が入っていない事を確認すると、デッキをインポートする。

 

余談ではあるが、この時点で友人間では《虐殺のワーム》と《悪意に満ちた者、ケアヴェク》を用いて盤面を流す、ゴブリンを強烈にメタった形の【青黒ジャイルーダ】が試されていた。友人は「BO1においては遅いデッキ──つまりは【ティムール再生】が減り、【ゴブリン】を始めとしたアグロデッキが増える」という点を読んでこのデッキを選択する勇気を見せ、上手いことBO1を抜けていたところは流石の一言だ。

 

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TIvadar 《茨の騎士ティヴァダール/Tivadar of Thorn》はゴブリンを根絶やしにする騎士団を率いた人物

 

【青黒ジャイルーダ】調整組とはまた別に私に宛てがわれた新デッキは【青白ヘイトベアー】と形容できそうな、(構想初期故に仕方ないのだが)不思議なデッキだった。「《紺碧のドレイク》と《静寂をもたらす者》が環境の鍵だ」と豪語する友人に「なるほど」と大きく頷く。

 

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この時点で【鍛えられた鋼】を用いた白単アグロデッキに《静寂をもたらす者》が採用されているのは確認済みで、1枚で【ゴブリン】の強い動きの多くを封じるクリティカルなカードである事は身をもって痛感していた。

相手の《自然の怒りのタイタン、ウーロ》の自壊能力を封じる友情コンボが成立してしまうために相手を選び、メイン4枚採用は割り切る勇気がいるように思えたが、それを加味しても【ゴブリン】に対しての強烈なメタカードであるという事実はこれの採用を正当化する。

 

なお、この直後に世界ランキング1位に登り詰め、彗星の如く現れては一気に流行り始めた【白単オーラ】にはしっかりと《静寂をもたらす者》が採用されている。
この時点で《静寂をもたらす者》が鍵であることに気付けた友人はまさに慧眼だったと言えるだろう。

 

【ティムール再生】と【ゴブリン】が多くを占めるこの時点のメタゲームはとにかく赤く、《紺碧のドレイク》も納得のいく選択だった。こちらは実戦で遭遇したことはないが理由は分かる、といった気持ちだ。

 

結論から言ってしまえば、この【青白ヘイトベアー】自体はごく普通に失敗作だった。

 

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バグまみれのデッキ

 

自分で置いた《ヴリンの翼馬》や《スレイベンの守護者、サリア》が自分のカウンターや除去を阻害したり、《静寂をもたらす者》のせいで自分の《拘留代理人》や《尊敬される語り手、ニアンビ》の能力が失われたりとかなり悲惨な噛み合わせ具合である。
「このデッキ、バグだらけなんだけど……。デバッグの仕事しろって話だったの?」と苦言を呈されるのも無理からぬことだろう。
そんな文句を垂れつつも《静寂をもたらす者》が今かなり刺さる事に関しては確信めいたものを感じていた。確かな手応え……という程では無かったが、少なくとも小さな輝きは感じられた。
「とりあえず色々直すね。だいぶ変えるよ。大改造だ」と意気込む私の表情は、【ゴブリン】同型戦でマクサスを出し合っている時よりも間違いなく活き活きとしていた。


《静寂をもたらす者》と《紺碧のドレイク》を無理なく投入できる【青白飛行】をベースに組むのが良さそうだと思い、とりあえず仮組みする。

 

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確か最初はこんな感じだった記憶がある。《静寂をもたらす者》と《紺碧のドレイク》が3か4だったかもしれない

 

《天球の見張り》のサイズアップは《静寂をもたらす者》に阻害されてしまうが、それ以外は上手く落とし込めたのではないか、と思った。「とりあえず組んだよ」と報告すると画面共有し、BO1ランク戦でとりあえず回してみる。

 

あっという間に10連勝してしまった。

本当にあっという間だ。マナカーブに沿って飛行クリーチャーが展開され、一瞬で相手のライフを削り切る。《静寂をもたらす者》も《紺碧のドレイク》も環境に突き刺さっているように見えた。ざわつく通話。困惑する私。

デッキを組んだ当人である私も最初から勝てるとは思っておらず、それなりに微調整に時間を費やすつもりだったこともあり、予想外の快挙に「あれ……?」と小さく呟く。一瞬でダイヤ4から2まで辿り着き、その日は一旦落ち着いて止める事にした。

 

翌日、微調整を行ったこのデッキはあっさりとミシックまで到達した。僅か2日、たったの49戦であった。ダイヤからの勝率は実に7割を超えており、全員が「これはマジでソリューションかもしれん」と思い始めた。7月28日。大会まであと4日というタイミングである。

 

 

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最終的にはこういった形になった。BO1では【ティムール再生】が減り、
赤いデッキが増えるため、《ドビンの拒否権》が3枚目の《紺碧のドレイク》になる


このデッキの立ち位置も非常に良かった。【ゴブリン】はこの時点では《マクサス》にオールインするような構築になっており、《マクサス》にカウンターを当てるか《静寂をもたらす者》を間に挟みつつ1〜2ターン目に展開したクロックで空から殴り続けていれば概ね勝てた。負け筋は《ゴブリンの酋長》固め引きによるダメージレースでの敗北と、早期に《クレンコ》が着地するパターンだが、全体的な勝率は8割近く、大幅な有利を感じさせる。

 

【ティムール再生】も《溶岩震》を完全に腐らせることができ、《死者の原野》から発生するゾンビトークンを無視して殴れる点がかなり好感触だった。《サメ台風》だけは打ち消しで対抗できず、空を止められる可能性があるため、こちら側も意識的に《厚かましい借り手》4枚と《非実体化》で合計5枚バウンスを取る事で対抗策を確保した。

 

【赤白変身】はトークンの群れを無視して空から殴れる点が偉く、【ケシスコンボ】には速度勝ちできる。【エルフ】や【エスパーコントロール】は厳しいものの数自体が減っているので問題はない。この時点でのメタゲームでは、BO1の勝率7割越えはもはや自明だったと言えるだろう。

 

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"without flying"の一文が致命傷となった。

 

だが、驚異的な勝率でのミシック到達と同タイミングで、環境が変遷を始める。ここで【白単オーラ】と【赤単バーン】がにわかに流行り始めたのはこのデッキにとっての最大の不幸だったかもしれない。

 

【白単オーラ】は相手に触れる手段が少ないために《ケイラメトラの恩恵》や《命の恵みのアルセイド》でバウンスを躱されると対抗策が無くなり、2ターン目の《コーの精霊の踊り手》には対処できず、警戒と飛行のついたデカブツでこちらの小型クロックは全て止まってしまう。

 

【赤単バーン】は《渋面の溶岩使い》と《熱錬金術師》が最悪で、先手で出されようものならその時点で詰みに近い。
根本的に、軽いシステムクリーチャーの対処が苦手なのだ。ここがこのデッキの大きな弱点であり、アリーナオープンまで数日という所でそれが大きく響くメタゲームへと移り変わっていった。

 

更に逆風として、他のプレイヤーもこのデッキの立ち位置の良さに気付いたのか、私たちと同じように試して「強い」と感じたのか、アンテナの高いプレイヤーたちの間で【青白飛行】及び類似デッキでもある【青白スピリット】の存在が急激に認知され始めてしまった。

某プロプレイヤーに至っては「赤単と白単がキツいんですよね」と弱点までキッチリ把握している始末(プロって本当にすごいな……)

 

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処理できません。

 

やはりアマチュアプレイヤーがサクッと組んだデッキでは秘密兵器にはなり得なかったか。無数の追加カードが投入され、時間もないからこそ、1日単位でメタゲームが変化していく。情報が荒れ狂い、数多くのヒストリックプレイヤーが切磋琢磨する怒涛の5日間であった。

 

そして迎えたアリーナオープン当日。チームメンバーは【青白飛行】が2人(自分を含めて)、【青白スピリット】が1人、【青黒ジャイルーダ】が1人、【黒単アグロ】が1人。

1日目は全員0~1回のリトライで7勝で抜け、2日目は全体の成績は振るわなかったものの、【黒単アグロ】を握ったメンバーが賞金1000ドルに辿り着いた。

 

【青白飛行】は、そこそこの成績を残しつつも敗れ去った。

反省点はある。BO1を抜けないと話にならないとしてBO1に力を入れ、その結果BO3の練習が疎かになってしまったこと。それに伴い、サイド後の【青白飛行】の戦力評価を高めに見積もっていたことだ。

サイドプランの研鑽の不足か、そもそも不利なのかは定かではないが、サイド後不要なカードを抜き、《砕骨の巨人》や《炎の一掃》を積んだ【ティムール再生】への勝率は想定よりも悪く、【白単オーラ】は布告除去や《残骸の漂着》程度では止まらなかった。 

BO1は【青白飛行】で良かったが、BO3はまた別のデッキを選ぶべきだった。

 

だが、それも結局後出しでしかない。たった二週間でBO1とBO3、社会生活を営みながらどちらも万全の状態に仕上げられたプレイヤーがどれだけいただろう。

 

本日の《荒野の再生》の一時停止リスト入りでまたしてもこうした環境分析が無意味になってしまったものの、限られた時間で仲間たちと大会に向けて準備するのはとても楽しかった。カードゲームの楽しみとはまさにこういう所にあるのだろうと感じさせてくれる。 

数年後、この記事を読み返して「こんな事もあったね」と笑い合えるといいな、と私は思う。だからこそ、性懲りも無く何かに挑戦してはこうしてブログに戦いの記録を残すのだ。