丸くやわらかい。

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《長老ガーガロス》は何故”弱い”のか?

昨今、マジック界隈ではM21に収録されるとあるクリーチャーが話題になっています。

その名も《長老ガーガロス》。5マナ6/6の恵まれたボディにずらずらと強そうな能力が並んだ、M21の顔とも言える神話レアです。

 

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警戒、到達、トランプルという攻防一体のアビリティに加え、攻撃かブロックをする度に三つの能力の内1つを使用することができます。その内容も"3ゲイン"、"3/3トークン生成"、"1ドロー"と、どれも馬鹿にならない能力です。《ガーガロス》が殴り始めればすぐに戦況は大幅に有利になるでしょう。

その上、5マナという現実的なコストです。公開されたこのカードを一目見て、「緑なら必ず選択肢に入る! すぐに4枚集めよう! 」と考えたプレイヤーもいらっしゃるのではないでしょうか。

 

しかし、これだけ強いテキストのカードを目の当たりにしても、玄人プレイヤーたちは皆浮かない顔をしています。それどころか、こともあろうにこの《ガーガロス》を“弱い”とまで言ってのける始末。
「いやいやいや、能力見えてないの?どう考えても強いでしょこれは」そんな声も聞こえます。そう。普通はこれほどのカードを見た第一印象が“弱い”であるはずが無いのです。今回は何故《ガーガロス》がこれほどまでに“弱い”とされるのか。その理由について徹底解剖していきましょう。

 

まず前提として、ちょうどMTG公式が以下のような記事をあげていました。《悪斬の天使》プレビュー時の記事ですね。

 

mtg-jp.com

 

この記事は《ガーガロス》のようなカードの戦力評価を行う上で、鍵となる考え方が述べられています。この記事から今回のお話に関係のある部分を抽出し、要約すると以下の通りになります。


・マジックの強力なクリーチャーは概ね《熟考漂い》型か《悪斬の天使》型に分けられる


・《熟考漂い》型は盤面を制圧するほどの戦闘力は持たないが、カードアドバンテージを約束し、すぐに除去されたとしても何かを得る事ができる。


・《悪斬の天使》型は、戦闘を優位にする力を持ち、すぐに除去された時に何も得るものはないが、その戦闘能力と制圧力を目当てに採用される。

 

《ガーガロス》はこの分類で言えば《悪斬の天使》型です。その恵まれたボディと戦闘能力で速やかに盤面を制圧し、ゲームを終わらせることを本懐とするクリーチャーだと言えるでしょう。

 

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いきなりですが、筆者はTwitterで散々扱き下ろしつつも《ガーガロス》が特別弱いクリーチャーというわけではないと思っています。《ガーガロス》よりも弱いクリーチャーはいくらでもいます。

先程能力の説明を軽くした時に言及した通り、殴り始めれば速やかに盤面を制圧できるほどには、強い能力がテキスト欄に所狭しと敷き詰められているクリーチャーなのですから。正常に機能するならば《ガーガロス》は素晴らしいコストパフォーマンスを持ったフィニッシャーとして活躍してくれるでしょう。

 

ならば、何故ここまで扱き下ろされればならないのか?

それは現実的に考えて“殴れない”からです。

 

《悪斬》型のクリーチャーはしばしば除去に非常に弱い形のデザインをされます。

相手によってはあっさりと対処されてしまうものの、盤面に残れば一気に勝負を決めてくれる──《悪斬》型のクリーチャーに求められる能力はそうしたものです。本家《悪斬の天使》然り。リスクを負う代わりにリターンが大きいから。除去耐性を持たずとも除去されなければ勝てるから。だからこそ、彼女はかつて様々なデッキで使われ、1枚5000円になり、"悪斬ゲー"と謳われるほどの支配力を見せつけたのです。

 

しかし、再録と共に唐突に彼女の時代は終焉を迎えます。当時あらゆるデッキが搭載していた事実上の無色除去《四肢切断》や、《蒸気の絡み付き》《マナ漏出》《喉首狙い》。そして、《精神を刻むもの、ジェイス》といった優秀な除去カードがこれでもかと押し寄せて来たからです。
平均1〜2マナのインスタントで対処されて何も残らない5マナのクリーチャーは、第一線で戦うには厳し過ぎました。大型クリーチャーの座は“タイタン・サイクル”のような《熟考漂い》と《悪斬の天使》の良いところ取りをしたカードや、《ワームとぐろエンジン》のような、除去されても何かを残せるカードへとシフトしていきます。

 

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熟考+悪斬型、みたいな連中でした

 


少し時代が進んでから、とあるプロプレイヤーは《瞬唱の魔道士》で使い回される《蒸気の絡み付き》を指してこう言いました。「4マナ以上で戦場に出たときの効果を持たないクリーチャーを出し、対戦相手のハンドに《瞬唱の魔道士》と《蒸気の絡みつき》がある場合、君たちは基本的にはそのゲームを落としてしまう。」


──あまりにも端的に真理を示した一文だとは思いませんか。

事実、《瞬唱の魔道士》を用いてテンポを奪い去る戦術があまりにも強すぎたために、一枚のカードとしては絶大なコストパフォーマンスを持ちながらも、活躍の機会すら殆ど無く退場していったカードは数多くありました。即効性や除去耐性を持たない純粋な《悪斬の天使》型のクリーチャーは、こうした軽量高性能の除去と手早くゲームを終わらせる手段が蔓延る環境では例外なく活躍しにくいのです。

 

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では、そうした歴史を踏まえて、現環境で《ガーガロス》の前に立ち塞がる除去を見てみましょう。
現環境には《厚かましい借り手》や《時を解す者、テフェリー》《エルズペス、死に打ち勝つ》のような、バウンスや除去をした上で更にカード1枚分以上の仕事をするカードが普遍的に使われており、 全体除去《空の粉砕》も存在しています。

 

カウンターは《神秘の論争》がしばしば複数枚投入されて十分に使われていますし、現環境の中心色であるバントとティムールカラーから目を離しても【スゥルタイ・ランプ】のようなデッキが《思考消去》《暴君の嘲笑》《無情な行動》《戦争の犠牲》といった対処札をガッチリと積んでおり、隙がありません。

 

更に、少し前の環境から引き続いて、本来サイドカードとしてデザインされた筈の《霊気の疾風》がメインに複数枚積まれていることも多く、緑の大型クリーチャーというだけで大きくポイントを落としてしまいます。今は環境の低速化に伴って各々対処札をしっかりと積んでいる状態であり、《ガーガロス》がこれらの良質な対処札の雨を掻い潜って殴るのは少し想像しにくいものです。

 

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"良質な対処札"の一例

玄人プレイヤーが苦虫を噛み潰したような顔をして《ガーガロス》を見ていたのはその為です。彼らは《ガーガロス》に刺さる除去を列挙するような性格の悪い事はしなかったかもしれませんが、経験則によって《ガーガロス》が殴るシーンが想像できないと感じています。
「《エルズペス、死に打ち勝つ》で死ぬ」だけならば「引かない時だってあるだろう」「マナ加速から早めに出して殴ればいいだろう」と反論できるかもしれません。しかし、デッキ内に分厚く重なったありとあらゆる対処札の的となり、なおかつ場に出たターンに何もしないカードとなると、もはや擁護ができなくなってしまうのです。


5マナのカードが《時を解す者、テフェリー》に手札に戻され、次のターンに出し直せば《エルズペス、死に打ち勝つ》で追放され、相手はその間にもアドバンテージを稼いでいる……今すぐにでも投了したくなる展開です。

対処札を挟んでゲームを遅延させてから勝つコンボやコントロールデッキを前にした《ガーガロス》の頼りなさは想像するに余りあるものでしょう。フルスロットルの【ティムール再生】なら後手で《ガーガロス》を出した返しに負ける事すらあり得ます。

 

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そもそも本当に6/6なら安心して殴れるのですか?

 

さて、ここまでで散々扱き下ろしてしまいましたが、《ガーガロス》がこうしたカードに弱い事は当然だと言えます。《悪斬の天使》型のカードは基本的にはアグロデッキとのゲームで活躍を期待される類であり、"除去耐性が無く戦闘力が高い"というのは、対戦相手の行動に逐一対処してゲームの流れを引き寄せようとするコントロールに弱く、盤面とライフにプレッシャーを掛けることでゲームを決めようとするアグロに強いという事に他ならないのですから。

 

しかし、現状アグロデッキを取り巻く環境は厳しいものがあると言わざるを得ません。現環境における最大勢力は【ティムール再生】です。本来こうしたコンボデッキは序盤から攻め立てるアグロデッキを苦手とするはずでしたが、そう簡単にアグロデッキが勝ち上れるならばこんなメタゲームにはなりません。

【ティムール再生】は《自然の怒りのタイタン、ウーロ》や《焦熱の龍火》《炎の一掃》《霊気の疾風》でメインからアグロデッキに対する対策を固め、そうでなくとも他のデッキは先述のような軽量高性能の除去でゲームをズルズルと後ろへ後ろへ引きずり込んでいくために、アグロデッキは《エンバレスの宝剣》や《巨大化》《剛力化》のようなカードを一瞬の隙にねじ込むような厳しい戦いを強いられます。現状、【赤単】【緑単】【ラクドス・アグロ】のようなデッキがメタ上に存在していますが、計4回のプレイヤーズツアーのトップ8にアグロが1デッキも無い事がその厳しさの証明と言えるでしょう*1

 

M21の新カードも、下馬評ではアグロを劇的に強化するようなカードは少なく、【ティムール再生】──というよりは、中低速デッキの盤石な守りを崩すには至らないのではないかと考えられています。

 

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《ガーガロス》がメインデッキの60枚に入って活躍する未来を想像するならば、まず、アグロデッキが隆盛を極めなければなりません。

《ガーガロス》は元よりアグロデッキキラーとしての能力を有しているわけですから、アグロが逆風に晒され続けている今、必然的に《ガーガロス》はその役割を失います。先述のように、中低速デッキの分厚い対処札を前にするには《悪斬》型のクリーチャーはあまりに分が悪すぎます。

そして、これが《長老ガーガロス》が"弱い"とされる理由なのです。

 

とはいえ、未来の事は誰にも分からないというのが実際の所であり、下馬評がどれだけ悪かろうと、私たちが予想だにしなかったデッキが現れ、活躍したカードが長いマジックの歴史の中には数多くあるというのもまた事実です。

M21の一見【ティムール再生】らの牙城を崩すに至らないように見えるカード群が意外な強さを発揮するかもしれません。M21発売後に新しい禁止カードが出る事で環境が大きく変わるかもしれません。なんだかんだでサイドボードに1~2枚積まれる構築が主流になるかもしれませんし、相対的にアグロが強いヒストリックやBO1に居場所を見つけるかもしれません。

更に言えば、更に三ヶ月後、ローテーション後のことなど誰にも分かる筈がありません。《霊気の疾風》や《テフェリー》が落ちて、《ウーロ》によるゲームの遅延を重く見たウィザーズによって"ゼンディカーの夜明け"で狂ったようにアグロが強化されるというシナリオも、あり得ない話ではないでしょう。

 

さて、そうした様々な事を踏まえつつも、私は自分の感覚を信じて"《ガーガロス》は使われない"方にベットしてみようと思います。これでM21環境でばっちり《ガーガロス》が使われたら、その時は素直に私のカードの見る目の無さを認めるとしましょう。さあ、皆さんはどうしますか?

《ガーガロス》を買いますか? 買いませんか?

 

*1:なお、内訳は以下の通り。

 

ティムール再生 15

バントランプ 4

ジャンドサクリファイス 4

スゥルタイランプ 2

アゾリウスコントロール 2

ラクドスサクリファイス 2

バントフラッシュ 1

4c再生 1

オルゾフヨーリオン 1

 

内3/4がティムール再生の優勝で終わっている